クレーム対応で管理職がすることは、相談を受けた後の判断と担当を整理し、現場が対応を続けられるよう支えることです。自分ですべての電話に出る必要はありませんが、担当者に「何とかして」と任せたままにせず、次に誰が何をするのかを確認しましょう。
「部下から相談されても、何から確認すればよいかわからない」「難しい案件が同じ人に集中する」「対応が終わると改善の話も止まってしまう」。この記事では、こうした悩みを持つ管理職・責任者に向けて、報告を受けた直後から、担当調整、対応後の支援、改善の確認までを紹介します。
判断権限や相談先は職場によって異なります。以下の例は自社の規程と承認された方針に合わせて使い、例文の[ ]は確認した内容に置き換えてください。
相談を受けた直後は、安全・事実・約束を確認する
急いで支援が必要かを先に確かめる
まず、担当者が今も電話や対面で対応中なのか、いったん対応を終えて報告しているのかを確認します。暴言・脅迫など安全上の問題がある場合は、通常の聞き取りより、担当者や周囲の安全確保を優先します。
緊急性がなければ、すでにある記録を見ながら次の点を確認しましょう。必要な情報が欠けていても、報告を受け付けない理由にはせず、不足分を誰が確認するか決めます。
- 申し出と要望:相手は何が起きたと述べ、何を求めているか。
- 確認状況:社内で確認できたことと、まだ不明なことは何か。
- これまでの案内:何を説明し、どの対応を約束したか。
- 連絡予定:相手の希望時間と、会社側が合意した日時は何か。
- 相談の目的:判断、対応の交代、他部署への確認など、何が必要か。
相談を受けたときの声かけ例
「報告ありがとう。今も対応中ですか。まず、すぐに交代や安全確保が必要か教えてください。その後、確認できたことと、判断に迷っている点を一緒に整理しましょう。」
使う場面:相談内容をまだ把握していない段階。安全上の問題があれば、聞き取りを続けるより必要な支援を先に行います。
相手の申し出だけで、担当者のミスと決めつけない
「前の担当者が返金できると言った」という申し出と、記録で確認できた案内内容は分けて扱います。記録にないことだけを理由に、相手の話を誤りと決めつけることも避けましょう。
担当者には、案内した理由と参照した資料を聞きます。自社の不備を確認できた場合は、その内容を訂正する対応と、担当者への指導を分けて進めます。
最初に電話を受けた人の確認手順は、クレーム電話対応の基本マニュアル|確認・引き継ぎ・記録の5つの手順で確認できます。
自分で判断することと、相談することを分ける
管理職という役職だけで、すべてを決定しない
返金・交換・補償・例外対応を決められる人は、自社の権限によります。管理職が判断する案件もあれば、承認済みの条件で現場担当者が対応できる案件もあります。
必要な事実、適用する条件、自分の権限がそろっているかを確認します。権限があっても事実が不足していれば、確認を進めてから判断します。権限の範囲外なら、上位者や担当部署へ相談しましょう。
相談時は「どうしたらよいですか」だけでなく、未確認事項、自分が検討した対応、判断を求める点を伝えると、相談先が検討しやすくなります。
上位者・担当部署への相談例
「[案件]について、[確認済みの事実]を確認しています。[未確認事項]は調査中です。[検討している対応]は私の決定権限を超えるため、可否の判断をお願いします。顧客への連絡は[合意した日時/未定]です。判断までに追加で必要な資料も教えてください。」
使う条件:相談先と自分の権限を確認できている場合。相手の希望日時を、会社側の約束として記入しないでください。
判断待ちの間も、現場に次の動きを伝える
上位者の承認待ちでも、必要な資料の確認や経過連絡の準備は進められる場合があります。「待っていて」だけで終えず、現時点で案内できる範囲、保留する事項、次に確認する人を担当者とそろえます。
調査が終わる時刻と、確認状況を連絡できる時刻は別です。結論が出る見込みを確認できていないなら、解決や最終回答の時刻を約束させないようにしましょう。
判断権限や相談先を文書にする方法は、クレーム対応マニュアルの作り方|判断権限・引き継ぎ・記録の社内共有テンプレートで詳しく紹介しています。
担当を調整し、引き継ぎが止まらないようにする
案件を進める人・連絡する人・支援する人を確認する
部署をまたぐ案件では、「担当部署に送った」後に誰も次の作業を進めていないことがあります。管理職は、次の役割が誰に割り当てられているかを確認します。
- 案件を進める人:確認事項や承認状況をまとめ、残る作業を管理する。
- 顧客へ連絡する人:承認された説明と、合意した連絡予定を実行する。
- 支援する人:資料確認、専門的な判断、通常業務の代行などを行う。
小さな職場では一人が複数の役割を担えます。ただし、不在時の代行と、担当者が決まるまで確認を続ける人を曖昧にしないことが大切です。
引き受けられるかを確認してから、次の作業を任せる
経験がある人にも、ほかの案件や業務があります。現在の負担、案件の難しさ、必要な知識、交代の必要性を確認して担当を調整します。難しい案件を毎回同じ人に任せる場合は、補助する人や通常業務の調整もセットで検討しましょう。
役割を確認する社内の声かけ例
「[案件担当者]さんに確認作業を、[連絡担当者]さんに顧客への連絡をお願いしたいと考えています。現在の業務と合わせて担当できますか。[支援担当者]さんには[補助する作業]を相談します。次に[確認する内容]を[社内の確認期限]までに確認しましょう。」
使う条件:役割を割り当てる前の相談です。引き受けることが確認できてから確定し、社内期限と顧客への約束を分けて記録します。
引き継ぎ後は、受け取りと担当確定を確認します。約束した連絡が迫っているのに担当が未定なら、管理職から代行者や上位者へ調整を進めます。
顧客から「責任者に代わって」「いつ連絡をもらえるの」と尋ねられた場合の言葉は、クレーム電話の切り返し例文集|即答できない・要求に応じられないときの返答で、確認状況に合う例を選べます。
部下への支援は、声かけと業務調整を組み合わせる
交代や休憩の必要性を確認する
対応後に「大変だったね」と伝えることはできますが、声かけだけで負担が解消するとは限りません。本人の様子や希望を聞き、対応の交代、短い休憩、通常業務の期限調整などを検討します。
交代する場合は、誰が続きを受け持ち、本人に残してもらう確認は何かを具体化します。休憩後に同じ負担が集中しないよう、担当の配置も見直しましょう。
対応後の声かけ例
「対応ありがとう。今、続けて業務に戻れそうですか。交代や休憩が必要なら調整します。[残っている業務]の期限も、一緒に確認しましょう。」
使う場面:対応後の負担と業務状況を確認するとき。本人の気持ちを決めつけず、必要な調整を聞きます。
話したくないことまで、その場で聞き出さない
業務上必要な事実確認と、本人の気持ちを聞く場面は分けられます。周囲に聞こえる場所で、つらかった内容を詳しく話すよう求めないでください。
負担が続いていると本人が伝えた場合や、業務調整だけでは支援が足りない場合は、人事・相談窓口・産業保健スタッフなど、職場で利用できる支援先につなぎます。管理職だけで原因を診断したり、回復時期を決めたりしないようにしましょう。
電話口の聞き方・謝罪・保留などを練習する場合は、クレーム電話対応の話し方と場面別例文を参考にできます。言葉の練習に加え、実際に相談・交代できる体制も確認してください。
正当な申し出と問題のある言動を区別して対応する
商品やサービスの不備について説明・改善を求める申し出は、内容を確認して対応します。強い口調や繰り返しの連絡だけで、申し出そのものを不当と決めつけないようにしましょう。
一方、脅迫や人格を傷つける発言などには、担当者へ我慢を求め続けず、組織で対応します。申し出への確認・回答と、問題のある言動への対応を分けて考えます。
- 具体的な発言・行為と経緯を確認する。
- 職場の方針に沿って、交代・注意・対応終了の判断を進める。
- 必要に応じて本社・法務・人事などに相談する。
- 危険が差し迫る場合は安全確保と必要な緊急通報を優先する。
厚生労働省のマニュアルでは、本社・本部との連携や、状況に応じた警察・弁護士への相談が示されています。記載された対応時間の例をすべての職場に当てはめず、自社の業務と体制に合わせます。危険があるときに、決めた時間まで対応を続ける必要はありません。
参考:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(PDF)の内部手続・類型別対応の説明。
振り返りは、事実の確認から改善の実施まで進める
対応の経緯と、判断に迷った場面を確認する
振り返りでは、記録をもとに「何が起きたか」「その時点で何を確認できていたか」「どの判断で止まったか」を順に確認します。後から判明した情報を、当時の担当者も知っていた前提で評価しないようにします。
原因は、案内内容、確認手順、担当者の行動、商品の状態など、複数の可能性から確かめます。「原因は必ず仕組み」とも「担当者の注意不足」とも決めつけません。確認できない点は未確認として残します。
振り返りの質問例
「その時点では、どの資料を確認していましたか。」
「どこで判断に迷いましたか。」
「相談先には連絡できましたか。」
「次回、同じ場面で必要になる情報や支援は何でしょうか。」
急いで訂正すべき誤案内や安全上の問題は、振り返りの面談を待たずに対応します。個別の指導は、事実と必要な修正を整理し、本人と落ち着いて話せる場で行いましょう。
改善には、実行する人・期限・確認する人を付ける
「案内を見直す」「今後気をつける」だけでは、実施したかを確認できません。変更するもの、担当者、社内期限、確認方法まで決めます。
改善を具体化する例(説明用の架空の場面)
確認結果:購入画面と社内の案内資料で、交換条件の説明が異なっていた。
対応:担当部署が承認された条件に合わせて両方の記載を修正する。[担当者]が[社内期限]までに作成し、[確認者]が内容と公開・配布状況を確認する。
実施後:旧資料の差し替えと現場への周知を確認し、次の点検で同じ条件の問い合わせや現場の迷いが残っていないかを見る。
改善を実施しても、再発しないと保証できるわけではありません。問い合わせの内容や担当者の使いにくさを確認し、必要なら追加の修正を行います。
改善共有では、必要な情報だけを扱う
案件対応に必要な氏名・連絡先と、研修や改善に必要な情報は同じではありません。管理職は、共有の目的と閲覧する人を確認し、改善用の資料には不要な個人情報を載せないよう整理します。名前を消しても、ほかの情報から本人がわかる場合があります。
個人情報保護委員会のFAQでは、アクセス権限の最小化などが安全管理の手法として示されています。案件記録の閲覧・編集権限、保存先、保存期間は、自社の情報管理担当者と確認してください。
受付時の伝言を整理する書式は、電話メモの書き方とテンプレートをご覧ください。管理職はメモを作り直すより、既存の案件記録に判断と次の作業が残っているかを確認しましょう。
評価と日常の対話で、相談しやすい運用を続ける
クレーム件数だけで能力を判断しない
件数を見るときは、担当した業務量や案件の難しさも確認します。難しい案件が集中している人と、受付件数が少ない人を、単純な件数だけで比較しないようにしましょう。
具体的な評価では、事実の整理、権限を踏まえた判断、必要な相談、連絡の約束を管理したこと、改善への協力などを確認します。顧客が納得したかどうかだけで、担当者の働きを評価しないことも大切です。
確認できた行動を伝える例
「今回、未確認の補償を約束せず、必要な資料を整理して相談してくれた点は適切でした。引き継ぎ先の担当確認が遅れた点は、私の調整も含めて見直しましょう。」
相談を受けた後の結果を、現場にも返す
普段の打ち合わせで、未完了案件、担当の偏り、相談先につながらなかった場面を確認します。相談されたことがどう処理されたか、採用した改善は何か、保留した提案はなぜかも伝えましょう。
「いつでも相談して」と伝えるだけでなく、不在時に連絡できる人と方法が実際に使えるかを確認します。管理職自身も案件を抱え込みすぎないよう、上位者や専門部署への相談と業務の調整を進めてください。
管理職が確認したい実務チェックリスト
- 担当者や周囲の安全を確認したか。
- 申し出・確認済みの事実・未確認事項・約束を分けたか。
- 自分の権限で判断できるか、必要な相談を進めたか。
- 案件担当・連絡担当・支援担当が引き受けたことを確認したか。
- 交代・休憩・通常業務の調整が必要か確認したか。
- 改善の担当・期限・実施確認を決めたか。
- 担当者の行動と、自分の支援の両方を振り返ったか。
まずは、相談を受けた案件の「次に動く人」と「その人が確認すること」を明確にしましょう。そのうえで担当者への支援と改善の確認を続けることが、管理職の実務です。