クレーム対応マニュアルは、担当者が回答できる範囲、相談先、次の対応を管理する方法を、職場に合わせて文書にすることが大切です。謝罪の台本だけでは、返金を判断する人や、引き継いだ後に連絡する人までは決まりません。
「人によって判断が違う」「責任者が不在だと止まる」「記録はあるのに次の対応が進まない」。こうした悩みには、判断権限表・連絡先一覧・案件記録を組み合わせたマニュアルが役立ちます。
この記事では、作成・見直しを担当する方向けに、決める項目と社内共有用のひな形を紹介します。ひな形は自社で承認したルールに置き換えて使ってください。書式を作っただけで対応方針が決まったことにはなりません。
すぐに書式を見たい方は、マニュアルのひな形、案件管理のひな形へ進めます。
最初に対象業務・受付経路・利用者を決める
まず「何についての申し出を、誰が、どこで受けるのか」を整理します。店舗の対面受付と、通販のメール受付では、確認できる情報や相談方法が異なります。
- 対象業務:商品、配送、予約、接客、請求など。
- 受付経路:電話、メール、対面、問い合わせフォームなど。
- 利用者:受付担当者、案件担当者、承認者など。
- 適用範囲:対象の部署・店舗・営業時間と、別の手順を使う案件。
過去の対応記録から、迷いが生じた場面を集めましょう。「判断する人が不明」「部署をまたぐと引き継ぎが止まる」など、文書で補う必要がある点を洗い出します。記録がなければ、現場への聞き取りから始められます。
受付時に使う早見表と、詳しい説明を分ける
最初のページには、回答前の確認事項、相談条件、連絡先、記録の保存先をまとめます。詳しい条件や商品別の手順は、該当箇所へ進めるようにします。
電話を受けた人の基本手順は、クレーム電話対応の基本マニュアル|確認・引き継ぎ・記録の5つの手順で確認できます。社内版には、自社の相談先と権限を加えてください。
担当者が回答できる範囲を、判断権限表にする
「返金は上司へ」「通常対応は担当者で」とだけ書くと、条件や例外が曖昧になります。対象となる対応、必要な確認、決定できる人、案内できる人を分けて記載しましょう。
以下は項目の設計例です。返金・交換をすべて管理職判断と決めるものではありません。自社の規程や契約条件に沿って、権限と相談条件を承認してもらいます。
| 対応の種類 | 文書にする項目 | 相談が必要な場合 |
|---|---|---|
| 通常の説明 | 参照する最新資料、回答できる担当 | 資料にない質問、説明と記録の不一致 |
| 返金・交換 | 対象条件、確認資料、金額等の範囲、決定者 | 条件が未確認、権限の範囲外 |
| 補償・例外対応 | 審査する部署、承認方法、回答する担当 | 既存の基準では判断できない |
| 連絡予定の案内 | 実行可能な予定の確認先、案内する担当 | 担当・予定が未定、約束に間に合わない |
「何を確認してから回答するか」まで書く
権限があっても、必要な事実や適用条件が未確認なら、結論を出せない場合があります。「受付担当者は、購入情報と対象条件を確認できた場合に、承認済みの範囲で交換を案内する」のように、前提を添えます。
責任や補償に関わる説明は、相談先を明記します。「感情への謝罪なら法的責任と無関係」といった断定を、社内ルールに入れないようにしてください。未確認の原因や補償を約束しないこと、確認済みの不備はその内容を明確に伝えることを、承認された方針に沿って整理します。
電話口の謝罪・確認・保留の言葉は、クレーム電話対応の話し方と場面別例文を参考にできます。
相談先と、不在時の引き継ぎ方法を決める
「困ったら責任者へ」で止めず、連絡方法と、不在・応答できない場合の次の相談先を一覧にします。営業時間外の受付がある職場では、その時間帯の対応も決めておきましょう。
相談先一覧に入れる項目
- 相談する条件と、緊急性の判断方法
- 最初の相談先・連絡方法・対応可能な時間
- 不在時の代行者・次の窓口
- 返答がない場合に、誰が再確認するか
- 顧客への連絡予定を確認・案内する人
「送信した」と「引き受けた」を区別する
記録を送っただけでは、相手が案件を引き受けたかはわかりません。共有済み、受け取り確認済み、担当確定を分け、担当が決まるまで確認を続ける人も定めます。
社内への引き継ぎ例文
案件[番号]について、[申し出]と[希望する対応]を受けています。[未確認事項]が残り、[判断してほしい事項]は未回答です。相手の希望日時は[日時/未確認]、約束した連絡日時は[日時/約束なし]です。確認と次の連絡を引き受けられるか、ご返信をお願いします。
例文の[ ]は確認した内容に置き換えてください。担当未定の場合は、割り当てを確認する人と社内の確認期限を記録します。社内の確認期限を、そのまま顧客への回答期限にしないことも大切です。
即答できない場合や責任者が不在の場合の返答は、クレーム電話の切り返し例文集で、場面に合うものを確認できます。
コピーして整える|社内マニュアルのひな形
次の書式に、承認された内容を記入します。[要決定]が残る項目は、そのまま正式運用せず、決定者と確認予定を管理してください。
【クレーム対応マニュアル】 文書名・版番号: 適用開始日: 作成担当/承認者: 最新版の保存先: 1.対象と利用者 対象業務・商品・サービス: 対象部署・店舗/利用する担当者: 受付経路・受付時間: 別の手順を使う案件と参照先: 2.受付時の確認 申し出・要望を記録する方法: 必要な本人確認と参照手順: 安全上の問題がある場合の連絡先: 3.回答・判断権限 対応の種類/確認する事実・条件: 担当者が決定できる範囲: 承認が必要な事項/承認者・承認方法: 顧客に回答する担当者: 判断できない場合の相談先: 4.相談・引き継ぎ 相談する条件/最初の連絡先: 不在・応答できない場合の代行先: 受け取り・担当確定を確認する方法: 担当未定の間に確認を進める人: 営業時間外の取り扱い: 5.連絡予定・案件管理 連絡予定を確認する担当者: 相手の希望と会社の約束を分ける記録欄: 経過連絡・最終回答の管理方法: 予定に間に合わない場合の連絡手順: 対応完了の確認条件と確認者: 6.記録・共有 使用する案件記録と保存先: 閲覧・編集できる人: 改善共有用の情報を整理する方法: 保存期間・削除方法の参照規程: 7.安全確保・見直し 交代・注意・対応終了の判断者と手順: 緊急時の対応/従業員の相談・支援窓口: 改訂を検討する条件/改訂担当・承認者: 変更内容の周知方法:
案件記録は、判断・対応履歴・未確認事項を管理する
一般的な電話メモは、用件と次に必要な連絡を伝えるものです。クレーム案件の記録では、複数回のやり取りや部署間の判断を追えるように、案件番号、判断理由、対応履歴、残っている作業、現在の担当者を管理します。
受付時のメモを案件記録へ引き継げる仕組みにすると、転記の負担を減らせます。一般的な伝言の書式は、電話メモの書き方とコピー用テンプレートをご覧ください。
案件管理のひな形
【クレーム案件管理票】 案件番号/受付日時・経路: 受付者/現在の案件担当者: 対象商品・サービス: 顧客情報:[必要な範囲で記録] ■ 申し出と確認状況 相手の申し出/希望する対応: 確認できた事実/確認元・確認日時: 未確認事項/確認する人・社内期限: ■ 判断・承認 判断が必要な事項: 判断結果・理由/参照した規程の版: 決定者・承認日時: 顧客へ案内できる範囲: ■ 対応履歴(やり取りごとに追記) 日時/担当者/受付・連絡経路: 実際に説明・謝罪・案内した内容: 相手の返答・追加要望: 追加の確認事項: ■ 連絡・引き継ぎ 相手の希望日時:[希望/希望なし/未確認] 約束した連絡日時:[合意した日時/約束なし] 連絡内容:[経過連絡/最終回答/その他/未定] 連絡担当者: 引き継ぎ先/共有日時/受け取り確認: 担当確定日時: ■ 次の対応・完了確認 案件の状態:[担当割当待ち/確認中/承認待ち/連絡待ち/実施待ち/完了等] 次に行うこと/実行する人・社内期限: 予定変更時の連絡内容・日時: 完了条件/実施結果・確認者・確認日時: 未対応の追加要望: 再発防止・文書改訂の検討先:
記入例|商品の不具合と交換の申し出
以下は説明用の架空の場面です。交換の承認条件は職場によって異なります。
申し出:商品が動かないため、交換してほしいとの連絡。
確認済み:注文記録で対象商品と購入情報を確認。
未確認:商品の状態と、交換条件に該当するか。
判断状況:交換可否は未決定。受付者から交換の約束はしていない。
連絡状況:相手は夕方を希望。会社側の連絡時刻は約束なし。
次の対応:案件担当者が商品の状態・交換条件を確認。連絡予定も確認し、案内する担当を決める。
「不良品なので交換」と書くと、確認前に原因と対応を確定させてしまいます。申し出、確認結果、判断を分けて記録してください。履歴を修正する場合も、元の記録と訂正内容が追える方法を決めておきます。
共有範囲と、安全確保の手順も文書にする
対応に必要な記録と、改善共有用の資料を分ける
案件の担当者には、本人確認や連絡に必要な情報があります。一方、研修や改善の共有では、氏名や連絡先まで必要とは限りません。目的に応じて情報を整理し、閲覧・編集できる人を決めます。
個人情報保護委員会のFAQでも、アクセス権限の最小化などが安全管理の手法として示されています。保存先、権限設定、保存期間、削除方法は、自社の情報管理担当者と確認してください。
正当な申し出と、問題のある言動を区別する
不満の申し出をすべてカスタマーハラスメントとして扱わず、要求の内容と言動を確認します。暴言・脅迫などがある場合の相談先、交代や対応終了の判断者、安全確保、従業員への支援を文書にしておきましょう。危険が差し迫る場合は、通常の承認を待たず、安全確保と必要な緊急通報を優先します。
厚生労働省の案内によると、カスタマーハラスメント防止措置は2026年10月1日から事業主の義務となっています。通常のクレーム対応手順に加え、方針の周知、相談体制、事後対応などを最新の指針・マニュアルと照合してください。このひな形だけで必要な措置すべてを満たすとは限りません。
参考:厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」/カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版・PDF)
作成後は試しに使い、承認・周知・改訂につなげる
ひな形を埋めたら、現場担当者と承認者で、実際に起こり得る場面に当てはめます。「責任者が不在」「部署をまたぐ」「約束した連絡までに確認が終わらない」といった場面で、次に動く人がわかるかを確認しましょう。
- 必要な判断権限と相談先を、すぐに探せるか。
- 未確認事項と次の作業が、記録からわかるか。
- 担当が決まるまでの確認が途切れないか。
- 完了の条件と確認者が決まっているか。
- 現場が無理なく記録できる量か。
確認後に承認を受け、版番号・適用開始日・最新版の保存先を示します。紙の旧版も含め、古い資料を使わないための回収や差し替え方法を決めてください。
変更履歴と、改訂を検討する条件を残す
変更履歴には、変更日、変更箇所、理由、承認者、周知状況を記録します。相談先の変更、商品・サービスの変更、判断に迷った事例、法令・指針の変更があったときは、定期点検の予定を待たずに見直しを検討します。
部下への支援、対応後の対話、改善活動や評価の進め方は、クレーム対応に強い組織を作る管理職の役割で詳しく扱っています。本記事の書式には、そこで決めた役割と運用ルールを反映させましょう。
マニュアル作成でよくある質問
既存の電話対応マニュアルに追加するだけでもよいですか?
判断権限、相談先、案件管理の方法を追加できるなら、既存文書を活用できます。別の資料にする場合も、参照先と最新版の保存先をそろえ、二つの文書でルールが食い違わないようにします。
小さな職場でも、細かい書式が必要ですか?
すべての欄を毎回埋める必要はありません。まずは回答できる範囲、不在時の相談先、未確認事項、次の担当と作業、連絡の約束を残せる形にします。一人が複数の役割を担う場合も、役割ごとの作業がわかるように書きましょう。
電話メモと案件記録を両方作ると、二重入力になりませんか?
受付情報を案件記録に引き継ぎ、判断や履歴を追記する方法にできます。記録場所を増やす前に、どれを正式な案件記録とするか、誰が更新するかを決めてください。
「回答済み」なら案件を完了にできますか?
回答後に返金・交換などの実施が残る場合もあります。回答済みと対応完了を分け、必要な処理、相手への案内、追加要望の扱いを確認する条件を、自社で決めておきましょう。
まとめ|判断する人と、次に動く人がわかる文書にする
クレーム対応マニュアルを作るときは、対象業務を決め、回答権限・相談先・案件記録・連絡予定の管理を具体化します。担当者が変わっても、確認済みのこと、残る作業、次に動く人がわかる形を目指しましょう。
まずは、判断に迷いやすい対応を一つ選び、権限と相談先を表にしてください。そのうえで、ひな形を自社向けに調整し、現場での確認と承認を経て共有すると進めやすくなります。